カラギナン
カラギナンとは、紅藻類から抽出される多糖類です。カラギーナン、カラゲナンと呼ばれることもあります。必ず硫酸基を有しており、その硫酸基の結合状態により、カッパカラギナン、イオタカラギナン、ラムダカラギナンの3タイプに分類されます。
1.構造
カラギナンは、右図に示すようなD-ガラクトースによる繰り返しの単位からなる多糖類です。硫酸基とアンヒドロ-D-ガラクトースの有無により3タイプに分類され、それぞれ異なる性質を持ちます。
カラギナンの原料となる紅藻類には、この3タイプのカラギナンを単独で含有するものはなく、複数の成分を含有しています。また、海藻の種類によってその割合が異なるため、海藻の種類および製法によって同じタイプの原料でも異なる物性を示します。
2.製造工程
カラギナンは紅藻類から抽出・ろ過・精製・乾燥・粉砕を経て製造されます。精製方法は、ゲルプレス法とアルコール沈殿法の2種類に大別できます。ゲルプレス法はろ過後にカリウム塩等によってゲル化させた後に、プレスして脱水し、精製する方法です。アルコール沈殿法は、ろ過後にそのままアルコール溶液に投入して析出させる方法です。これらの製法の違いによって溶解性、物性などに差異が生じます。
3.特性
溶解性
カラギナンの溶解性は硫酸基に結合しているカウンターイオンの種類や溶媒中の金属イオンの種類、精製方法によって異なります。カッパカラギナンおよびイオタカラギナンは、カウンターイオンまたは溶媒中にカリウムやカルシウムを含んでいる場合には冷水で溶けず、溶解には加熱が必要となります。一方で、ラムダカラギナンは金属イオンの種類に関わらず冷水に溶解します。 ゲルプレス法を用いて精製したカラギナンは溶解時にダマになりにくく、アルコール沈殿法を用いて精製したカラギナンはダマを生じやすくなります。
物性
カッパカラギナン、イオタカラギナンは金属イオンの存在下でゲル化し、カラギナンのタイプによってゲル化に最適なイオン、ゲルの特性が異なります。カッパカラギナンはカリウムイオンでゲル化し、もろくて離水の多いゲルになります。イオタカラギナンはカルシウムでゲル化し、弾力性があり離水の少ないゲルになります。ラムダカラギナンはゲル化しません。金属イオンの濃度が高くなるとゲル化温度やゲルの融点が高くなります。また、カッパカラギナンはローカストビーンガムやグルコマンナンなどとの併用でもゲル化し、弾力性があり離水が少ないゲルになります。
カッパカラギナンのゲル化
イオタカラギナンのゲル化
カッパカラギナンとローカストビーンガムの併用によるゲル化
たんぱく反応性
カラギナンはたんぱく反応性を持ちます。カラギナンの持つ硫酸基は溶液中でマイナスにチャージしており、プラスにチャージしたたんぱく質と容易に結合します。たんぱく質の等電点より高い場合には、カルシウムイオンのような二価の金属を介して結合し、ゲル化・増粘します。一方で、たんぱく質の等電点より低いpHの場合には直接たんぱく質に結合し、たんぱく質を沈殿させることがあります。等電点付近では、全体の電荷はなくなりますが、たんぱく質にはプラスとマイナスにチャージした部分がそれぞれ存在し、プラスにチャージした部分とカラギナンの硫酸基で反応し、沈殿を引き起こします。
粘度
カラギナンの粘度はカラギナンのタイプ濃度、温度、金属イオンの種類と濃度によって影響を受けます。特に金属イオンが存在すると、硫酸基間の反発力が弱まるため、粘度が低下します。3つのカラギナンのタイプの中では、ラムダカラギナンが最も高い粘度を示します。
カラギナンのタイプによる特長のまとめ
カッパ | イオタ | ラムダ | |
---|---|---|---|
溶解性 | 加熱溶解 | 加熱溶解 | 冷水可溶 |
ゲル形成 | 冷却、カリウムイオン | カルシウムイオン | ゲル化しない |
ゲル性状 | 金属イオンによりもろいゲルになる。 ローカストビーンガムなどのガラクトマンナンにより 弾力性のあるゲルになる。 |
金属イオンにより弾力性があるゲルになる。 | ゲル化しない |
ゲルの離水 | 金属イオンによるゲルは離水が多い。 ガラクトマンナンによるゲルは離水が少ない。 |
少ない | ゲル化しない |
乳たんぱくとの反応性 | あり | あり | なし |
4.応用例
懸濁安定効果
カラギナンは懸濁安定効果があります。ラムダカラギナンは粘性によって安定化させますが、カッパカラギナン、イオタカラギナンはゾルに見える微細なゲルによって安定化させることができます。
食品への応用例
対象食品 | 添加量 | 効果 |
---|---|---|
ゼリー | 0.1~1.5% | 様々なテクスチャーのゼリーを作ることができます。 |
介護食品 | 0.1~1.0% | 飲み込みやすいゼリーを作ることができます。 |
畜肉水産練製品 | 0.2~0.8% | 増粘・結着させることができます。 |
アイスクリーム | 0.01~0.05% | 分離を防止することができます。 |
デザート類 | 0.1~1.0% | ゲル化させることができます。 |
調味料類 | 0.01~0.05% | 懸濁安定効果があります。 |
小麦粉類 | 0.1~2.0% | 焼き菓子に使用するとしっとりさせることができます。 |
パーソナルケア製品への応用例
対象食品 | 添加量 | 効果 |
---|---|---|
化粧品・医薬品 | 0.1~1.0% | 練り歯磨き、化粧品などの増粘・ゲル化ができます。 |
芳香剤 | 0.1~10.0% | ゲル化させることができます。 |