多糖類の使い方
多糖類製品は主に粉末状態で販売されています。その用途は増粘、ゲル化、乳化安定、離水防止、懸濁安定、氷晶安定など
多岐にわたり、食品をはじめ化粧品等のパーソナルケア製品や工業薬品にも使用されています。
多糖類の使い方は使用目的によって少しずつ変わってきますが、ほとんどの場合に共通するポイントは「水に十分に溶解すること」です。
溶解とは
一般的に多糖類の溶解は
- 粉末の投入
- 膨潤(水和)
- 溶解
という過程を経て、多糖類の機能が十分に発揮されます。
各過程でどのようなことを意識すればよいのか、なぜその操作をするのか、各ポイントを理解することが、多糖類を使いこなすことにつながります。
使い方のポイント
粉末の投入操作
多糖類粉末を溶媒へ投入する際に「ダマ」の形成を防ぐことがポイントです。
ダマは粉末が塊状のまま投入されることで、塊の外側にある多糖類だけが水を吸い、粉末を覆ってしまう現象です。
このダマを作らないようにするには、粉末ができるだけ塊状で投入されないこと、粘度発現する前に素早く均一に投入することが重要です。
具体的には以下のような工夫を加えることで、均一な投入が可能となるでしょう。
- できるだけたくさんの水への溶解を試みる
- 粉末を少しずつ投入する
- 他の粉末(砂糖やデキストリン、食塩等)と混合してから投入する
- 低い温度(室温以下)の溶媒に投入する
- アルコールや油に粉末を分散させてから投入する
膨潤時の攪拌操作
溶媒中に投入された粉末は水を吸い、膨潤(水和)が進みますが、この時にポイントとなるのが攪拌です。
十分な攪拌を加えることで、絡み合った多糖類分子同士を物理的に引きはがし、水和を全体的に進行させます。
プロペラ攪拌機やホモミキサーなど、水を高速で攪拌して“渦”(乱流)を作ることができる機器を用いれば、“渦”の中で粉末がより均一に分散されて膨潤(水和)するため、効率よく溶解させることが可能となります。
粉末が水の中で分散されれば、その後の攪拌は液全体が流れる(混ざる)程度で十分です。
溶解時の加熱操作
攪拌操作と同様に効率の良い溶解を可能にするため、熱をかけることも溶解時のポイントになります。
多糖類の中には、常温の水に溶解可能な多糖類もあれば、加熱を必要とする多糖類も存在します。
後者の場合は、加熱することで分子同士がほぐれ、溶解できるといったメカニズムになります。
一方で、熱を加えることは多糖類にとって溶けやすい条件となっているため、「ダマ」の形成には注意が必要です。
加熱を必要とする多糖類は常温の水に投入しても膨潤しないためダマはできにくいですが、常温の水に溶解する多糖類はダマができやすいため、ダマの形成を防ぐためにも、溶解時の加熱の必要性に関わらず室温以下の冷水へ粉末を投入した後に加熱することを推奨しています。
より詳細について知りたい方は使い方のポイント(詳細)をご覧ください。
使い方のポイント(詳細)
①粉末の投入操作
ダマは多糖類粉末を水に投入する際に、粉末が塊状のまま水に触れることで発生します。
一度ダマができてしまうと、その後はうまく溶けなくなるため工夫が必要となるわけです。
さらにその程度は水和がしやすい特徴を持つ多糖類ほど起きやすく、水の温度が高いほど発生しやすいと言えます。
そこで改善策として、多糖類の粉末を水に投入する前に、その他の溶解しやすい原料粉末や多糖類がほとんど溶解しないアルコールや油等の分散剤と十分に混合してから水に投入することで、ダマの発生を抑えることができます。
分散剤なしの溶解
グラニュー糖を分散剤として使用した場合
エタノールを分散剤として使用した場合
上記は実際に、各種分散剤(グラニュー糖、エタノール)を用いて多糖類粉末を溶解した様子です。
分散剤を用いずに一気に投入すると大量のダマが発生しますが、分散剤を使用することできれいに溶解させることができています。
その他の成分と混合することで、多糖類粉末の間に他の成分が存在する状態となり、十分にばらばらになった状態で水に投入できるため、ダマはほとんど発生しません。
その他、粉末を一気に全量投入せずに少しずつ投入することで、水の中に分散しやすくなります。
しかし、この方法には注意が必要で、少しずつ投入した場合には、投入に要する時間が長くなり、投入した多糖類から順次溶解するため、徐々に溶液の粘度が上昇します。
その結果、粘度が高くなることで投入した多糖類粉末が分散しにくくなるため、ダマが発生しやすくなります。
粘度の上昇に合わせてさらに強い攪拌をかけることができればよいですが、液量が多い場合などには困難が予想されます。
こういった事態を防ぐためには、「多糖類粉末は少しずつ投入するが、粘度が出ない間に全量投入してしまう」ということが重要になります。
②膨潤時の攪拌操作
多糖類粉末を水に均一に分散させただけでは、十分な効果を発揮できていないことが多々あります。
下の写真では、一見大きなダマは存在しませんが、溶解が不十分であり、多糖類の機能が十分に発揮されていない状態と言えます。
粉末状態の多糖類は、分子が複雑に絡み合った状態で存在していると考えられています。
多糖類の機能を十分に発揮させるためには、この絡み合った分子を水中でほぐし、伸びた状態にする必要があるため、外力として十分な攪拌を加えることが有効な手段の一つになります。
そのため、可能であれば攪拌機の使用が推奨されます。さらに乳化機のような強力な攪拌の場合には、少し位のダマは壊しながら攪拌が行えるため、十分な溶解が可能となります。
③溶解時の加熱操作
様々な種類の多糖類がありますが、溶解方法としては大きく分けて2種類あります。
- 常温の水に溶解することができる多糖類:加熱不要タイプ(ex.キサンタンガム、グァーガム、アルギン酸ナトリウムなど)
- 溶解時に加熱が必要な多糖類:加熱必要タイプ(ex.ローカストビーンガム、ジェランガム、寒天など)
下の写真は、各性質の多糖類を30分間常温で攪拌した様子です。
「加熱不要タイプ」はきれいに溶解していますが、「加熱必要タイプ」は一向に溶解せず沈澱しています。
加熱不要タイプの多糖類は、水に投入して混ぜるだけで溶解します。ただし、水和の速さからダマが発生しやすい点に注意が必要です。
加熱不要タイプの多糖類を溶解する際にも加熱の工程は有効に機能します。常温の水に多糖類を投入してダマが形成した場合にも、攪拌を行いながら加熱することで粒子同士を物理的に離してダマを解消できる可能性があるためです。
一方で加熱の工程が使用できない用途では「分散」と「攪拌」を十分に行うことが多糖類の機能を発揮させるポイントとなるため、製造工程を考えながら溶解方法を選択することが重要です。
加熱必要タイプの多糖類は、常温では水和しにくく、粉末が分散するだけです。この状態で加熱を行うことでダマもほとんど発生させず溶解する事が可能です。
ただし、加熱すると溶解する性質があるため、温水へ投入するとダマが発生しやすくなります。加熱必要タイプはできる限り溶解温度よりも低い温度の液に分散することを推奨しています。
これら溶解性というのは、多糖類の分子構造(化学的な構造)に起因しており、規則正しい主鎖(結晶構造)をもつ多糖類は一般的に水和しにくいと言われています。基本的には、側鎖(非結晶構造)から水が浸透して主鎖へ広がり、その結果として分子間の結合がほぐれて溶解するイメージですので、多糖類の構造を知ることも多糖類の使い方を学ぶ上では重要です。多糖類の構造は本サイト内「多糖類の種類」をご覧ください。
- ※溶解に必要な温度や時間は多糖類によって異なり、使用するグレードや多糖類メーカーによって異なることもあるため、よく確認してください。
その他 注意点
水に投入する素材の順番
多糖類は上述の通り、溶解することがポイントとなりますが、異なった表現をすれば、高分子である多糖類一本一本の分子がほぐれることが必要となります。下記の場合にその「分子のほぐれ」が不十分となる場合があります。その解決方法として水に投入する順番がポイントとなります。下記の場合はすべて、多糖類を他の素材より先に、水のみに投入することをお勧めします。
ケース1)水(溶媒)に糖類が多く溶解している場合
砂糖や果糖ブドウ糖液糖などの溶解に水が使われ、多糖類の溶解に使用可能な水が少なくなることで溶解不良が発生することがあります。
多糖類粉末を直接溶解する場合は、糖類量のBrix20%を目安に検討してみて下さい。
ケース2)水(溶媒)のpHが酸性の場合
水のpHが酸性域の場合、多糖類粉末を投入、溶解する段階で分子の一部が切れてしまい、多糖類の粘性の度合い(粘度)やゼリーのかたさ(ゲル強度)が本来よりも弱くなる(低下する)場合があり、特に高温状態で長時間放置すると影響が大きくなります。
酸性域に調整が必要な場合は、最終工程で行うことが推奨されます。
詳細は本サイト内「多糖類選択のポイント」の食品用途の機能「耐酸性」(※会員様コンテンツ)をご覧ください。
ケース3)水(溶媒)にイオン系物質が多く溶解している場合
特に酸性多糖類(キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム等)は、溶解時に塩分や旨み成分等のイオン系物質(特にナトリウム、カルシウム等のカチオン)が多く含まれることで両成分がすぐに反応し、溶解不良や部分的なゲル化が起こることがあります。
イオン系物質の添加は、多糖類の溶解後に添加する事が推奨されます。
なお、イオン系物質を含む水に直接溶解させる場合、目安となるイオン系物質の量は塩分換算で3%までを目安に検討してみてください。
水が極端に少ない場合
水が少ない食品(麺類、水練り製品、あんこ等)に多糖類を使用する場合は、水分が十分にある場合とは溶解方法が異なります。その場合は、練りこむ(混和する)ことが必要なので、製造にあった混和機をご使用ください。